発酵について
目次
はじめに
1章『物語り』
・液体料理ができるまで
2章『味』
・甘味とは
・酸味とは
3章『発酵』
・発酵とは
・菌の分類
・酵素
・麹と発酵
・乳酸発酵
・日本酒醸造におけ
る麹と乳酸菌
4章『液体料理とノキシタ式発酵』
・ノキシタ式発酵
・その他の抽出技法
はじめに
分量と手順が簡潔に記され美しい写真がその理解のサポートしてくれる
はじめはそのようなレシピ本を作ろうとしていた。
だけどそこで共有できるのはあくまで知識や技術でしかない。
もしかしたら非常に高い文章力、読解力、想像力、共感力を兼ね備えた筆者と読者であればその簡潔なレシピからその内側にある物語を想起させることができるのかもしれないが、あいにく私にはそんな文章力はないし、そしてそんな読解力を求めるつもりもない。
力量はない、情熱はある、それなら量で攻めるしかないのが定石である。
なので決して簡潔ではない表現と読みつかれるほどの文章量で伝えることになることを最初に謝罪しておく。
全体で4章の構成になっている。
1章は私のつまらない自分語り。
2章3章は頭でっかちで賢いふりをしたいだけの理論展開
そして最後の4章が肝心のレシピ解説である。
先述の通り知識と技術を単純に求める聡明な皆さんは1~3章はスキップしてもらって構わない。どうやらタイパやらコスパとやらが大切なご時世らしいのでその方が賢明と評価されるだろう。
しかし物事には前提や背景が必ず存在する。
一つの料理はある日突然完成するわけではない。
その背景には当然その料理人のそれまでの研鑽がある、だけでなく、そのジャンルの先人たちの積み重ね、さらにはその土地の風土やそこに生きてきた人々の生活形式などその料理人が意識しているかどうかに関わらず死屍累々と文化と自然の残骸が織りなされている。
その前提や背景を理解し追体験しそれを自分の積み重ねてきたものと合わせることで、知識は知恵となり技術は技となる。つまりはその人間の生き様がそのまま身体の動きとなって現れ、それが一つの料理に成る。
私はそれこそが学ぶことの本質であると信じているし、そのように出来上がったものがまた次の世代に引き継がれることで、もしかしたらこのレシピなどは些末でくだらない塵芥のようなものかもしれないが、その塵の一つが未来の一駒に成ることを祈ってならない。
なのでもしも時間と心に余裕がる現代社会においてはもはや稀有な皆さんに於かれましては一つ私の些末な与太話にお付き合いいただけましたら恐悦至極に存じます。
1章
私は性格が悪い。
それは性格が悪質である。という意味ではなく、ひねくれている、天邪鬼である、という種類の性格の悪さだ。
子供のころから周りと違うことをすることを常に望んでいた。常識とか当たり前とかは疑ってかからずにはいられなかった。
人々がAかBかで議論していればCの答えを探したし、音楽や映画などはメジャーなものよりまだ日の目の見ていないマイナーなものを常に探していた。
権威的権力的大衆的なものも毛嫌いしていた。大企業の製品や大手のチェーン店より個人で商いをしているような商品やお店が好きだった。
なぜかは知らない。そういう人間なのだとあきらめるほかない。
なんとも現代においては生きにくい性分だと思う。
しかし私自身が私の生み出したものを振り返ったときにあえてなにか鍵となることはなにかと考えればこの『性格の悪さ』なのだろうと認識している。
自身の内的なもの、現状のルールや常識などの外的なもの、誰にでも自分を取り巻く状況に小さな『違和感』を感じることはあると思う。だけど往々にしてそれは特段顕在化することなく無意識の闇にひっそり消えていくことが多いのだと思う。しかし私はその性格の悪さから、もしかしたら人々が特に気に留めることもないような『違和感』を人より少し過敏に意識してしまい、そしてそれを易々と看過できずに過ごしてきた。
人と違うことがしたい!という能動的な動機と、常識や当たり前に対する違和感をスルーすることができない受動的な動機、その2方向からの圧力が自分の創造性の根源であるのではないかと自己分析できる。
そんなわけで料理やバーの世界に入った後も伝統的なレシピを周到することよりも「今まで誰もやっていなかったことを生み出してやる!」と躍起になっていた気がする。
ただ皮肉なことに、誰もやっていない新しいことを生み出すためには先人が何をやってきたかを学ばなければならないので自然と伝統的なレシピや技法も自然と勉強していた。
私はそれこそが夢中の力だと思っている。なにかに夢中になったときには自分の立ち位置を気にしている余裕などないのだ。ただ良きも悪きも、合うも合わないも関係なく、ただ貪るようにあらゆることを吸収したいという欲求があるだけだ。
そんなひねくれたセキネ少年は料理人として少しの間学び、そのあとバーの世界に足を踏み入れた。
バーの世界に入った後もそれこそ片っ端らに新しいことや奇抜なこを考えようとしていた。
もう15年以上も前のことだ。
思えばまだミクソロジーという言葉もまだ知らなかった。今ではすっかり形骸化してしまっている日本の素材を使ったカクテルも当時はまだ見かけることが少なかった。海外のブランドが海外の素材を使って作ったスピリッツやリキュール、シロップを混ぜてカクテルを作る、それがまだ当たり前であった。
もちろん聞いたことのないようなお酒やハーブの名前も珍しさや新しさのあったし、まだ誰もやっていないような組み合わせも往々にあったので、その当たり前の範疇で新しいものを作ることも十分に楽しかった。
だけども日本でバーテンダーをやっているのになぜ日本の食材を使ったものが少ないのか、海外の目新しさを求めるよりも身近な日本の素材を扱えるようになることが先ではないのか、それはその当時の自分が感じていた小さな『違和感』だったように思い出せる。
もちろんその背景には当時のバーテンディングがまだスピリッツやリキュール、シロップ、ミキサーなど既製品に依存していたこと(今もやけど。笑)や、言うてもまだGoogle翻訳で海外のレシピを読めたり、アマゾンで世界中の素材をポチッと変える時代ではなかったということもある。
当時レストラン業界でも日本の素材が脚光を浴び始めたばかりだったくらいの時代感だったと思う。なのでそういった日本の素材やそれを使った既製品がまだ世界的に需要があったわけではなかったということがあるだろう。実際国産のスピリッツやリキュールは今から考えると驚くほど種類もないし、質の高いものも少なかった気がする。
そういった状況の中で感じていた違和感から日本の食材というのは当時から私のテーマの一つになりつつあった。
しかしむしろそれ以前にとにかく既存品のどこバーにでも置いてあるスピリッツやリキュール、シロップを使ったカクテルを作るのが気に食わなかった。なんたって天邪鬼である。大手企業が作っているもの、一般に流通しているもの、というのが大嫌いだった。なので日本の食材に限らずに色んな食材をお酒に付け込んだり、シロップを作ったり、ということ繰り返していた、日本の食材はまだそのなかの一つであった。
柚子、昆布、鰹節、山椒、緑茶、駄菓子そんな日本の素材だけでなく、コーヒー、ポップコーン、ビスケット、いろんな国のスパイスやハーブなど片っ端からお酒に漬け込んだりシロップにしたりしていた。
しかし最終的なカクテルの完成形としてまだ、山椒のジントニック、ポップコーンラムコーク、など今でいうツイストカクテルのようなものであった。
その後もバーの世界で右往左往しながら、2014年に今のnokishita711の前身となるnokishita edible gardenを作った。
本当に若気の至りとしか言えないが、金も伝手も実力もないのに突然京都で独立して店を作った。
2坪しかない店だ。
これもやはり人と違ったことをやってやろうという性癖のせいなわけだ。今そのときに戻れるなら全力で止めたい気持ちだが、そのお陰で今があるわけだからやはりそっと見守っておくことにしようと思う。
2坪しかない、金もない、そんなわけだから当然多くのお酒を用意することはできない。
それならば何か専門性に特化したバーを作ろう!と当時まだ黎明期前であった“ジン”に絞って店を始めようと思った。
当時はまだクラフトジンという言葉も定着していなくてスモールバッチジンとか色々呼び名があった気がする。
ジンを選んだ理由は当時日本ではまだ無名に近かったが海外では少しずつブームが来ていたということ。少人数で少量生産をする作り手がぼこぼこ現れていたこと。その人たちが自分の地元のものであったり偏愛するものを材料に新しいものを作ることに挑戦していること。そんなところに惹かれていたのだと思う。
世界には自分たちの地元の素材を使って自分たちだけのプロダクトを作っている人がいっぱいいる!そんな海向こうのムーブメントに感銘を受けた。と同時にここにきて“地元の素材゛=“日本の素材”というのがより一層自分の中の大きなポジションを占めるようになってきたように思う。
よくなぜジンのお店から今の液体料理に変わったのか、という疑問を投げられることがあるが、素材にフォーカスする、ということは実は共通のテーマであった。
ただその当時はその素材をお酒に漬け込むということしかやり方を知らなかったので、結果それをクラフトジンというカテゴリーに当てはめてしまった方が世間に分かりやすいと考えていたわけである。
そんなこんなで初めての独立にてんやわんやしつつも、翌年にはnokishita711をオープンした。
最初は知人に任せていたため違うコンセプトの店だったが、その後にまぁ本当に二転三転、四転五転、と色々、本当に色々あり、nokishita edible gardenを閉め、nokishita711 Gin & Cocktail Labo.として今のお店でカクテルづくりに専念することになった。このあたりから皆さんのイメージするnokishita711の原型ができ始めてきたことになる。
先述した通り初めは日本の素材をお酒に漬け込み、それをベースにジントニックやマティーニ、ネグローニなどを作っていた。
しかし徐々に感じていた新しい違和感は日々大きくなっていった。
それは「お酒に漬け込むことはその素材の魅力を十分に引き出すことではないのではないか」ということであった。
コーヒー豆一つにしてもお酒に漬け込むより、普通に豆を挽いてお湯で抽出したほうが豆の魅力を十分に引き出していることには異論を唱える人は少ないであろう。
それならばお酒に漬け込む、ということに限定されずに色々な方法を試してその素材にとってベストな抽出方法を見つけることをしていかなければならないと考えた。
少し専門的な注釈をいれると、アルコールは水溶性の物質も脂溶性の物質も溶け出すという特徴がある。なのでそれが良いほうに作用すれば水には溶けださない要素が抽出できるということになるが、悪く作用すれば余計なものまで溶け出してしまうということになる。なので確かにアルコールは多くを抽出できるが万能ではないのだ。
蒸留も同じように揮発性の香りを抽出することには長けているが、逆に液体に溶け込んでいたであろう味は蒸留によってカットされてしまう場合がある。
何事も一長一短なのは世の理であるのでとにかく色々な方法を試していこうとしていた。
そんな新しい違和感と対峙するころに作った象徴的なカクテルが
『鰹節と煎茶のジントニック』
である。
出発はお出汁やうま味をテーマにしたカクテルを作る。であった。
なので最初は鰹節と昆布をお酒に漬け込むところからスタートした。
鰹節も昆布もスピリッツに漬け込んでみるとやはり渋みやえぐみが強く出てしまいお出汁として飲んだ時より格段に劣っていた。ならばと一般的な出汁の引き方で試してみたがお出汁のように高い温度で抽出するとのちにレモンやトニックの酸味や甘みと合わせたときに魚の香りであったり渋みが悪いほうに目立ってしまった。
なので低い温度で水出しを試してみた。そうするとそれまでの悪い魚の特徴は少なくなった。しかし昆布の臭みがどうしても抑えられなかったので、同じうま味成分であるグルタミン酸をもつ緑茶が代わりに使えないかと試した。
同じようにお酒に漬け込んだりお湯で抽出したりと色々試したところ低い温度で水出しにした煎茶が非常に相性が良かった。
そうして生まれたのがジントニックに水出しの鰹節と煎茶を合わせた『鰹節と煎茶のジントニック』である。
ジン、水出しの鰹節と煎茶の出汁、レモンジュース、トニック、ポン酢を使ったカクテルだ。
2章
あなたの理想のカクテルの味は?
それを定義せずに走り出してしまうのは目的地を決めずに旅に出るようなものである。
それはそれで楽しい旅になるときもあるが、この場合はあまり良い方法ではないだろう。
ここまで長々と語ってきたように、私にとって理想のカクテルとは
・身近な素材を使う
・素材の魅力を引き出す
・食中酒として汎用性がある
ということである。
と羅列してしまったが解決していく順番としては、まず、食中酒として汎用性があることが最初の課題である。
食中酒として汎用性がある。というのは、一つの料理に対してチューニングして100%のペアリングを生み出すということより、赤身の肉ならだいたい合う赤ワイン、軽めの魚や野菜なら何を合わせても無理のない白ワイン、のように気軽に食事と合わせることのできる味わいと私は考える。
そのためには単純に言ってしまえば赤ワイン、白ワイン、日本酒、などのように食中酒として愛されるお酒の味わいの特徴を捉えなければならない。
次の素材の魅力を引き出す、という課題は食中酒として汎用性があることを前提に考えないといけない。正直ある程度の甘味のあるカクテルを前提にすれば素材の魅力を引き出したカクテルというのは難しいことではない。
しかし私は食中酒として楽しめるようなカクテルを作りたいので甘味はより穏やかで、その代わり酸味を含めたほかの味の複雑さで味のバランスを作ることを選択した。
そして最後に日本の食材を扱うことはこの2つの課題を解決したうえであとは一つ一つの食材にとってベストな料理方法を探っていく、という段階を踏むことで成立する。
もちろんそこにはより自分の求める味に最適な素材を調達する努力も必要であるが、今回は割愛する
このロードマップの最初の一歩は自分にとって理想の味とはなんだろうか、ということを定義づけることである。
そのためにはそもそも味とはなんだということを考えていかなければならない。なのでここではカクテルの味に特に重要な甘味と酸味について深堀していくことで求める味の全体像をつかんでいこうと思う。
甘味
まず身近な甘味について考えてみる。
グラニュー糖、上白糖、きび糖などの白砂糖はほぼスクロース(ショ糖)いう甘味成分でできている。白砂糖を溶かして作られることの多いシロップ、リキュール、トニックウォーターなどのジュース類も同様である。
また黒糖も主成分は白砂糖と同じくスクロースであるが、白砂糖のスクロースが97%-99%なのに対して75%-86%で他に転化糖やミネラルなどの非糖分が含まれる。
蜂蜜はグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が主成分である。
甘味の度合いを表す甘味度を比較すると
マルトース 0.32 : グルコース 0.64~0.74:スクロース 1:フルクトース 1.15~1.73
というデータが出ているようにスクロースとフルクトースはグルコースに比べると甘味が強い。
また甘味度以外にも甘みを感じる時間の長さ(呈味時間)にも大きく関わってくる。
こちらもグルコースはスクロースに比べて短い時間というデータがある。
また糖は後述する乳酸発酵にも強い関係性を持っている。
基本的に乳酸菌はグルコースやフルクトースなどの単糖類を餌にして乳酸を作り出します。そのためスクロースやマルトースなどの二糖類や多糖類は一度単糖類に分解される必要がある。そのため乳酸の餌としては単糖類の方が発酵には有用だと言える。
以上の理由や日本という環境などを考慮して私たちは甘味に関してはグルコースを選択することになった。それも麴発酵によってデンプンを分解してグルコースを得ることを選択した。
それに関してはグルコースの獲得以外の要素も絡んでくるため後述する。
酸味
酸味に関しては、食品に含まれる代表的な有機酸としてクエン酸、乳酸、リンゴ酸、酢酸、酒石酸などがある。
酸に関しては酸の濃度を示す酸度や酸性の強さを示すph値で表されることが多いがそれらが我々が感じる酸味として完全に相関関係であるとは言い切れないため比較はしにくい。
飲料に含まれる有機酸の種類は
日本酒 → 乳酸,コハク酸,リンゴ酸の 3 成分で約 80%を占める。その他にクエン酸,酢酸等が少量
ワイン→酒石酸とリンゴ酸で70‐80%、乳酸を含めると90%、極少量のコハク酸、酢酸、クエン酸
コンブチャ→主に酢酸
レモンジュース→クエン酸が主、リンゴ酸
ライムジュース→クエン酸が主、コハク酸
である。
酸度に関しては
クエン酸 1 : 乳酸 1.2 : リンゴ酸 1-1.2 : 酢酸1 : 酒石酸 1.2-1.3
というデータがある。
クエン酸や酢酸は酸っぱいイメージがあるが酸度でみると他の酸より少ない。
官能検査による酸の質としては
クエン酸:穏やかで爽快な酸味
乳酸:柔らか味のある温和な酸味
リンゴ酸:爽快な酸味、かすかな苦み
酢酸:刺激のある酸味
酒石酸:やや渋みのある酸味
などと表現されることもあるが温度帯によっても感じ方は違ってくるのでこちらも参考程度に収めたい
有機酸の種類と温度に関しては一般的に
低い温度(5℃前後)→リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、酢酸
中間帯(12℃前後)→リンゴ酸、乳酸
高い温度(20度前後)→乳酸、コハク酸
が美味しく感じる傾向にあると言われる
食品で比較すると
ph値は
コカ・コーラ pH 2.2 / 梅干し pH 2.0 / レモン pH 2.0 / りんご pH 3.0 / バナナ pH 5.0 / 水道水 pH 6.5-7.0 / ビール pH 4.0-5.0 / ヨーグルト pH 4.0. 牛乳 pH 6.7 / ワイン pH 3-4 / 日本酒 pH 4.2-4.7 / 緑茶 pH 7.0
酸度は
リンゴ 0.2-0.7% / 日本酒 1.3-1.5% / ワイン 0.4- / 酢 4.5% / レモン 4.5%
という感じである。
また酸味は単独の酸より複数の酸が合わさった場合の方が穏やかに感じやすいので単純な計測値より官能評価で判断した方が良いのかもしれない。
nokishita711で現在作られているカクテルの酸は乳酸発酵によって得られる乳酸をメインとして、同じく発酵の過程で得られる酢酸、コハク酸、クエン酸などである。
私が乳酸をメインにしたいのは直感的、官能的な部分が多いのだが改めて利点をまとめてみると
・酸の質が柔らかいこと(食材の味わいを感じやすくする)
・高い温度帯で心地よい酸であること(一般的に味わいは低い温度で感じにくいものが多いため高い温度でおいしく感じる酸は食材の味わいにフォーカスしたうちのカクテルと相性が良い)
・乳酸発酵の過程では単純に乳酸だけが生成されるわけではなく、酢酸、コハク酸、クエン酸など様々な酸が微量に生成される(TCA回路)ため自然と複雑で穏やかな酸味が得られる
などがある
また一般的によく用いられる乳酸発酵の手法は、塩分を添加して他の菌を滅菌し塩分に強い乳酸菌だけを増殖させる方法だが、その場合少なくても2%ほどの塩分を添加するので得られる乳酸は塩分が含まれるためカクテルに用いるのにはしょっぱすぎる。しかし私が参考にした日本酒の醸造法に用いられている乳酸発酵の手法は塩分を添加することなく乳酸の増殖を可能にしているためカクテルとの相性が良いということも起因している。
卵が先か鶏が先かは忘れてしまったが、そのように試行錯誤の末に食材、糖、酸、発酵という歯車が偶然かみ合って動き出したことで私のカクテルはその完成を予感させられた。その瞬間の光悦は忘れようもない。
すべてがかみ合って生まれたのがノキシタ式発酵法である。
発酵とは
さて、そんなわけで、私は理想的な甘味と酸味を得るために発酵という終わりなき航海に出たわけである。もちろん航海の途中には色々なすったもんだがあったわけだ、過去形でなく現在でも様々な問題に直面したり、新しい方法を思いついたりと発酵という海原は私を休ませてはくれないわけだが、ある程度安定した航海もできるようになった今日この頃である。
これを読んでいるみなさんは、御託はいいから結局あなたの考える最善な発酵方法とは何なんだ!さっさと教えろ!と、そろそろしびれを切らしているかもしれないが発酵と一緒でそんなに甘い話ではない。
なぜなら私の考える最善の方法はあなたにとっては最善であるとは限らないし、もちろん私にとってもより良い方法はまだまだあると思っている。
あなたにとって最善とは限らないのは発酵というのは環境に大きく依拠するからである。気温、湿度、菌の種類、ところ変われば最善がたちまち最悪にひっくり返る、それが発酵である。そんな時にでもその原因を想像して対処方法を模索するには基礎知識を持っていること以外には神に祈るしか手立てはないのである。神に祈るのも悪くはないが、我々が料理人である限り、その両手を組んで頭の上に捧げるよりかはひたすらに両手を動かして解決を探る方が本望であろうと私は期待している。
では改めて発酵について話そうと思う。
発酵はあらゆる微生物によって行われる生命活動である。
その目的はその微生物が生きるためのエネルギー(ATP=エネルギーの通貨)の獲得である。決して我々に乳酸やグルコースを献上するためにあるわけではないことを忘れてはいけない。
我々人間など大型生物にとって同じエネルギーの獲得を目的にした生命活動は呼吸である。発酵と呼吸は酸素を必要とするかどうかという違いしかない。
微生物は文字通り小さい。小さいので生命活動に必要なエネルギーは我々よりもかなり少なくて済むので酸素を使った大規模なエネルギー獲得プロセスが必要ないため発酵によってエネルギーを得ているのである。
そして我々のお目当てである乳酸などはそのエネルギー獲得のプロセスにおける副産物にすぎない。非常に下品にわかりやすく言い換えるのであれば、微生物が食事をしてエネルギーを得る、そして不要なものをうんことして排出する。我々がありがたがっている乳酸などはそのうんこなのである。
因みにその発酵のプロセスで活躍するのが酵素である。聞いたことあるけどなんなのかちゃんと説明できる人は少ないのではないだろうか。酵素についてはまた後に語る。
まとめよう
・発酵とは発酵をおこなう微生物にとって「酸素のない状況で有機物を分解してエネルギー(ATP)を獲得する」こと
・発酵と呼吸は近い
・大きな生物 → 大量のエネルギーが必要なので酸素を使って大きなエネルギー獲得する
・微生物 → 多くのエネルギーが必要でないため酸素を使わずにエネルギーを獲得する
・我々にとっての発酵は、有機物の分解のプロセスで排出される成分を獲得すること
・有機物分解プロセスの触媒となるのが微生物の持っている酵素
菌の分類
次はその発酵を実際に行って下さっている菌の種類について紹介しよう。
この辺はあまり専門ではないので軽く昇華させてもらう。
菌は大きく真菌類と細菌類に分類される。
真菌類は人と同じ真核生物に分類される。真菌類を親戚だと思っている人はかなり希少だと思うがもし知り合いにそんな人がいたとしてもそれはバカにできることではないということだけ覚えておいてほしい。
細菌類はそれに対して原核生物という単細胞生物である。
真菌類には多細胞な方も単細胞な方もいらっしゃる。
多細胞は麹カビ、クモノスカビ、ケカビ、紅麹カビ、キノコ類など。単細胞は酵母である。
真菌類
真核生物: 染色体が膜に包まれた核の中に存在しており、ヒトと同じ真核生物の仲間
多細胞: 麹カビ、クモノスカビ、ケカビ、紅麹カビ、キノコ類
単細胞: 酵母
役割: 真菌は分解、栄養循環、植物との共生関係(例えば菌根菌)において重要な役割を果たします。
繁殖: 有性生殖と無性生殖の両方で繁殖し、多くの場合、胞子を通じて繁殖
応用: 食品発酵(例えば、清酒、醤油、チーズ)、医薬品(例えば、ペニシリンのような抗生物質)、バイオテクノロジーに使用されます。
細菌類
原核生物: 染色体DNAが細胞の中に裸で存在しており、単細胞の原核生物の仲間
細菌類: 乳酸菌、酢酸菌、納豆菌、ブドウ球菌
役割: 細菌は栄養循環、窒素固定、さまざまな生物の消化器系内の共生関係において重要な役割を果たします。
繁殖: 主に二分裂による無性生殖
応用: 食品製造(例えば、ヨーグルト、酢、発酵野菜)、環境浄化、医薬品(例えば、プロバイオティクス、抗生物質)
この中で実際に我々の発酵に関係のあるものをピックアップする。
主に私が使っているのは麹菌と乳酸菌である。
ここで麹と呼ぶのは米に麹菌を生やした米麹であることをまず定義しておく。
麹菌はデンプンやタンパク質のあるものに繁殖しやすいので米以外にも麦や豆などで麹が作られることがあるが、日本で一般的に麹と言われるものは米麹(後述するがその中でも黄麹がほとんど)である。
日本は麹の文化である。日本酒、味噌、醤油など日常の中で使われるあらゆるものに麹は関わっている。様々な種類の麹を手に入れることも難しくないし、麹に関する研究や技術も蓄積されているので情報も得やすい。特に古い文献や論文、杜氏の手記的なものは日本語でしか保存されていないものも多いので日本語習得者であるメリットは大きい。
なので自然と麹を使った発酵をうちでは取り入れている。もやし屋さん(麹専門店)も近所にあるので必要であればすぐに買いに行ける。
しかし日本以外の国で麹を使った発酵をすることは少しハードルが高い。まず麹を手に入れるのが難しい。私が主に使っているのは白麹という種類の麹であるが、日本以外で辛うじて手に入る麹はほぼ黄麹である(単に米麹、麹という名前で販売されているものは黄麹である)。それでもたぶん手に入れられない国も多いだろう。そして品質の怪しいものも少なくない。
もちろん自分たちで麹菌を取り寄せて米などに繁殖させ麹をつくることも可能であるが、設備、技術、品質の安定の観点からハードルは高くなるので安易におすすめはできない。
ではこれから繰り広げられる発酵の話は日本にいないとできないことなのだろうか?と聞かれるとノーである。大切なのは何を目的として麹を使って発酵をするのかである。
その目的はデンプンを分解してグルコースを作り出すことである。そのための麹である。
さらにより正しく定義するのならばデンプンを分解してグルコースを作り出すのは麹自体ではなく麹が作り出すアミラーゼという消化酵素である。つまり麹を使った発酵はアミラーゼという酵素を活性させデンプンをグルコースに変換することが目的である。
それ以外の副次的な利点も多々あるので単純に代わりになるとは言えないが、アミラーゼの活性だけに関して言えば他にもその役割を果たせるものもある。ビール醸造における麦芽、テンペやアジアの穀物酒に使われるクモノスカビ、ヤマイモや大根などの野菜、人の唾液にもアミラーゼは含まれている。それらをうまく活用できれば麹を使わずにデンプンをグルコースに変換することは可能であると思われる。そのあたりはまだ私は考察ができていないが、近いうちに挑戦してみたいと思っている。
つまりこのあと説明するノキシタ式発酵は麹が欠かせないレシピであるが、麹を他で代替することは可能であるので、レシピをただ真似るのでなくその目的と原理を正しく理解することであなたの住む土地にあった発酵が見つかるはずである。
少し思想的な話になってしまうが、20世紀以降は改めていうまでもなく情報のグローバル化が当たり前である。そしてここ最近は自動翻訳の精度がより高まったことで多言語の情報も入手が簡単になった。この文章も日本だけでなくあらゆる国の方に読まれることであろう。情報が世界中から簡単に手に入る時代、素晴らしいと思う。どの分野でもこれまではなかなか安易に手に入れることの難しかった他国、他言語の情報が得られることで何の分野でもどこにいようとも最先端の情報を駆使して知識や技術が高められる。というのが誰でも思いつく理想であるが、私の眼から見た実際は得られた最先端の情報を吸収してそこから新しいものを生み出すことはそんなに多くなく、最先端の情報を真似るだけで満足してしまっている状況が多く感じられる。そして蓋を開けてみればどこの国でも同じようなことが繰り返されているだけになってしまっているように感じられるのである。特に我々のような自然に近い分野は本来であればその土地の風土や文化と共存する形で新しいものが発展し、その土地ならではのオリジナリティが生まれるはずであるが、情報のグローバル化に加え、流通のグローバル化によって、どこかで流行っている食材や技法の情報が一瞬で世界の裏側まで広まり、そしてそれを再現するために必要な食材や道具がネットで注文すればあっという間に手に入るという事態になっている。情報と流通のグローバル化によって多様な新しいものが生まれるような気がしていたが、実際には世界が均質化してしまっただけになっている。
特に専門的な分野の情報はそれ以外の分野や消費者には届かない。なのでどこかの国や地域で最先端の流行りをそのままコピーペーストすれば自分の国や地域では最先端のパイオニアのような立場を取ることも簡単にできてしまうのっだ。それで満足してそれを自分の土地の風土に合わせてさらに進化させるような努力を怠ってしまうのである。
ノキシタ式発酵もここで情報を得て、ネットで材料を手にいれればそのままどこの国でも再現することは可能である。麹だって日本から取り寄せることは不可能ではない。だけども少なくとも私の想いとしては、ノキシタ式発酵の理論がただのコピーペーストの元ネタになるだけではなくて、その理論をもとに自分の土地に合った新しい理論を誰かが構築してくれることが理想である。まさに発酵のスターターのような役割を担ってほしい。この文章がそのための一助になれば幸いである。
麹菌 → アミラーゼ(デンプンをブドウ糖に分解する酵素)とプロテアーゼ(タンパク質をアミノ酸に分解する酵素)などを生成する
黄麴菌 → 伝統的に日本酒で使われる。糖化力(特にαアミラーゼが多い)が強い。クエン酸を生成しない。フルーティーな味わい
黒麹菌 → 泡盛から焼酎へ転用。タンパク質分解力強い。クエン酸を生成する。ずっしり野性味のある酸
白麹菌 → 主に焼酎、最近は日本酒でも使われる。黒麹菌の突然変異。タンパク質分解力強いが、黒麹よりは糖化力も強い。クエン酸を生成する。すっきりとした酸
※黄麹はクエン酸を生成しないので暖かい気候での酒造りには向かない
酵母→ 空気中では糖を二酸化炭素と水にする。嫌気中ではグルコースをピルビン酸を経てアルコールと二酸化炭素にする。乳酸菌と共培養、共同作業が様々な発酵食品で行われている
紅麹 → 天然色素を生成する。酵素の力は弱い。醬のような塩味
クモノスカビ → ケカビの仲間だがケカビより成長が早い。蒸し米より生米で繁殖が早い。周りを酸性にする(フマル酸が多い(酵母によってリンゴ酸に変換される可能性))。糖化力は麹菌の2/3程度、たんぱく質分解力は強い、しかし材料によって左右される。果実様の芳香
キノコ類 → カビの胞子(植物でいう種)をつくる子実体が目に見えて大きいもの
酵素
菌が生物なのに対して、酵素は生物ではなくただのタンパク質である。
なので酵素自体は増殖もしなければ、変化もしない物質です。
生物が物質を変化させる化学反応を触媒する分子であり。ただ自分の役割を全うするだけの職人気質なタンパク質である。
酵素は現在知られているだけでも6000種類あり、恐らくまだまだたくさんの酵素が世界には存在しているでしょう。
あまり覚えなくてもいいことですが、6000種確認されている酵素ですがその役割によって大きく7種類に分類されます。職業の違いみたいなものです。
酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、脱離酵素、異性化酵素、合成酵素、輸送酵素の7種類です。一応それぞれの特性もまとめておきます。
①酸化還元酵素(オキシドレダクターゼ)…酸化還元反応を触媒。HやOを転移させる反応を触媒。
例)乳酸脱水素酵素(LD、LDH)、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、ウリカーゼ
②転移酵素(トランスフェラーゼ)…化合物の一部(基)を他の化合物に転移させる反応を触媒。
例)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、γ‐グルタミルトランスフェラーゼ(γ‐GT)、クレアチンキナーゼ(CK)、ヘキソキナーゼ、グルコキナーゼ
③加水分解酵素(ヒドロラーゼ)…分子に水(H2O)を付加して分解する反応を触媒。消化酵素に多い。
例)アルカリフォスファターゼ(ALP)、コリンエステラーゼ(CHE)、アミラーゼ(AMY)、α‐グルコシダーゼ、スクラーゼ、ラクターゼ、リパーゼ、ペプシン、トリプシン、ペプチダーゼ、~プロテアーゼ、ウレアーゼ
④脱離酵素(リアーゼ)…化合物の一部(基)を脱離あるいは逆に付加する反応を触媒。除去付加酵素ともいう。
例)アルドラーゼ、エノラーゼ、フマラーゼ、アスパルターゼ、炭酸脱水酵素、クエン酸シンターゼ(逆反応)
⑤異性化酵素(イソメラーゼ)…異性体を変換する反応を触媒。
例)ムタロターゼ、ホスホグルコムターゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、~ラセマーゼ、~エピメラーゼ
⑥合成酵素(リガーゼ)…ATPを用いて2つの分子を結合する反応を触媒。
例)アシルCoAシンテターゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ
⑦輸送酵素(トランスロカーゼ)…生体膜を介して水素イオン、アミノ酸、炭水化物などを輸送する反応を触媒。
例)NADH:ユビキノン還元酵素、ABCトランスポーター
また麹菌の生成する酵素についてより深く言及すると
麹菌は200種類以上の酵素を生成すると言われている。その酵素を活用して原料を変質させることで甘味やうま味などが得られる。
麹の生成する中の代表的な酵素が「デンプン分解酵素」「タンパク質分解酵素」「脂肪分解酵素」である。
例えば、日本酒造りではデンプン分解酵素のαアミラーゼとグルコアミラーゼが米のデンプンを主にグルコースに、タンパク質分解酵素である酸性プロテアーゼと酸性カルボキシペプチダーゼがタンパク質をアミノ酸やペプチドに分解する
醤油や味噌でも同じくデンプン分解酵素とタンパク質分解酵素が活躍するが、日本酒では特にデンプン分解酵素の働きが大きくなる麹を使うが、醤油の場合はデンプン分解酵素よりタンパク質分解酵素の働きが大きくなるようにする。味噌の場合はデンプン分解酵素とタンパク質分解酵素がバランスよく働くような麹が好まれる。
麹の種類は一般的に黄麹、黒麹、白麹と分類されるが、正確には黄麹にもアスペルギルスオリゼー、アスペルギルスソーヤなど違う特徴の菌が含まれていて、例えばソーヤはオリゼーよりプロテアーゼを作り出す酵素を多く生成する。種麹屋さんはその目的に合わせて数種類の菌をブレンドして米麹を作るので一概に黄麹とされているものでも酵素の特徴は違ってくる。
アミラーゼ群 (デンプン分解酵素)
アミラーゼ群はデンプンを糖に分解するデンプン分解酵素の仲間の総称である。
様々なデンプン分解酵素の働きを経て最終的にデンプンはグルテンに分解され、甘味分やその後の発酵のエネルギー源にもなる
単糖類は二糖類、多糖類に比べ菌による解糖がされ易いので乳酸菌や酵母菌の発酵を促進させる
アミラーゼ群のなかにも様々な種類の酵素があり、それぞれの役割を持っている
アミラーゼ(液化酵素)→デンプンを細かくする。食塩による阻害を受けない
αアミラーゼ→デンプンを二糖類、オリゴ糖類単位に切る。人間の唾液に含まれるデンプン分解酵素はほぼαアミラーゼ
βアミラーゼ→麦芽に多く含まれる。デンプンを麦芽糖(マルトース)単位に切る
グルコアミラーゼ(糖化酵素)→単独でデンプンをβグルコースに分解する(αグルコースはβグルコースの約1.5倍の甘さ)
グルコシダーゼ→オリゴ糖、デンプンをαグルコースに分解
イソアミラーゼ→アミノペクチンの枝分かれ部分を切る
※日本酒造りではαアミラーゼが少なくグルコアミラーゼが多いことが好まれる。味噌醤油造りではαアミラーゼが多くグルコアミラーゼが少ない方が良いとされる。どちらも黄麹菌を使うが、麹を作るときの条件によってコントロールしている
プロテアーゼ群(タンパク質分解酵素)
プロテアーゼ群はタンパク質をペプチドやアミノ酸に分解するタンパク質分解酵素の仲間の総称でその種類は大きくプロテイナーゼとペプチターゼに分けられる。一般的にプロテアーゼと呼ぶ場合はプロテイナーゼを指す。
アミノ酸はうま味だけでなくのちの発酵過程で菌の栄養源にもなる。
また清涼作用のあるものもある。
プロテアーゼ→タンパク質をペプチド(アミノ酸がいくつか結合したもの)に切る。食塩による阻害を受ける
酸性プロテアーゼ→日本酒で活躍。アミノ酸生成力は弱い、苦味ペプチド生成力が強い。清涼化作用がある
中性プロテアーゼ→味噌醤油で活躍。
ペプチダーゼ→タンパク質をアミノ酸単位に切る
酸性カルボキシペプチダーゼ→日本酒で活躍。アミノ酸を生成する力が強く、また苦味ペプチドを分解する
ロイシンアミノペプチターゼ→味噌醬油で活躍。
酵素の名前は同じでも微生物の種類によって性格が異なる。例えばαアミラーゼでも麹菌のαアミラーゼは55℃-60℃が最適温度だが、納豆菌のαアミラーゼは80℃が最適である。また黒麹、白麹菌のαアミラーゼは黄麹のαアミラーゼに比べ酸に強いなど酵素の特性は一概には決めれない。
アミラーゼ、プロテアーゼは特に日本酒、味噌、醤油づくりで活躍する酵素であるがそれ以外にも麹に含まれる酵素はたくさんあるのでその一部紹介する。
脂肪分解酵素
・リパーゼ(Lipase) → 脂肪を脂肪酸とグリセロールなどに分解する
植物組織崩壊酵素
・セルラーゼ(Cellulase)→ セルロース(食物繊維)を分解してグルコースにする酵素。
・ペクチナーゼ(Pectinase)→ ペクチンを分解する酵素。
・キシラナーゼ(Xylanase)→ 黒麹菌(Aspergillus niger) 起源。野菜、果物、キノコ類の組織の崩壊、穀類組織の軟化、穀類糖化液のろ過性の向上やキシロオリゴ糖の製造等に広く使用される酵素。
・マンナナーゼ→マメ科の植物抽出される多糖類ガラクトマンナンに作用しガム類の粘度低下やコーヒーの抽出率の向上・沈殿防止などに効果がある酵素。黒麹菌起源。
その他の酵素
・フィターゼ(Phytase)→ フィチン酸(ビタミンB)を分解してリン酸(酸味)とイノシトール(甘味)にする酵素。
・ヘミセルラーゼ(Hemicellulase)→ ヘミセルロース(食物繊維)を分解して単糖類にする酵素。
・アシラーゼ(Acidase)→ 酸を生成する酵素。
・デフェリフェリクリシン (Dfcy) → ヘキサナール(肉、魚の臭みの原因)を低減する。
通常の日本酒醸造では活躍しないようなデフェリフィリクリシンのような酵素も肉や魚などを発酵させる魚醤や肉醤の製造、ノキシタ式発酵では大切な要素である。
麹と発酵
日本で主に使われている麹は先ほど消化した黄麹、白麹、黒麹である。
古くから麹として使われていたのは黄麹であるが、黄麹は暖かい土地の酒造り(特に焼酎造り)には向いていなかった。その中で明治43年に沖縄の泡盛からクエン酸を生成する黒麹菌が発見され培養され、その後黒麹菌の突然変異種として白麹菌が発見された。特に白麹黒麹は焼酎造りで使われることが多かったが近年では日本酒造りでも使われることが多くなってきている。
日本酒造りにおける麹の大きな役割はデンプン分解酵素とタンパク質分解酵素の生成である。アルコール酵母は糖を分解してアルコールを作り出す。ワインなど果実を発酵させて作る醸造酒と違い、米から作る日本酒はまず米のデンプンを分解し糖を作らないといけない。そのため
では具体的に日本酒造りで比較した場合、この3種類の麹にはどのような違いがあるのだろうか
まず白麴と黒麹は兄弟分であるので特徴も似ている。黄麹と白麴黒麴のわかりやすい違いはクエン酸を生成するかどうかである。黄麹はほとんどクエン酸を生成せず、白麴黒麹は多く生成する。また一般的に黒麹より白麹の方がクエン酸生成量は多い。
またほかの酵素を比較したデータがる
上の表を参考にすると
アミラーゼ群では黄麹はαアミラーゼが白麹黒麹に比べてかなり多い。グルコアミラーゼは3つの麹でそのまで差がない。
プロテアーゼ群では酸性プロテアーゼは白麹、黒麹が黄麹に比べて多く、酸性カルボキシペプチターゼが黄麹、白麹、黒麹が多い。
単純にこれだけを見ると白麹黒麹はデンプンの糖化力が引くように思われるが黄麹と比べて米への無効吸着が少なく、また耐酸性・耐アルコール性に優れているので、もろみの末期でも失活しにくい。という二点の理由から、初期の発酵はやや遅いものの、最終的には十分なアルコールを生成することができるとされている。
プロテアーゼ群では白麹黒麹は酸性プロテアーゼが多く、酸性カルボキシピプチターゼが少ない。タンパク質は酵素によってペプチドやアミノ酸に分解されるが、白麴黒麴は酸性カルボキシピプチターゼが少ないため苦味ペプチドの量が多くなる。旨味、甘味、苦味と多様で複雑な味わいのアミノ酸に比べてペプチドは特に苦味が感じやすい成分のため白麹黒麹で仕込まれた日本酒は苦みの残る仕上がりになりやすい。
もちろんこれは一例であり、麹菌の種類や米麹の生成方法によって酵素の量は変わってくることを忘れてはいけない。
ノキシタ式発酵では白麹を使う場合が多い。それはそのクエン酸
乳酸発酵
乳酸発酵とは乳酸菌が生成する乳酸脱水素酵素(LDH)などによりグルコースを分解し乳酸を作り出すこと。
その乳酸発酵を起こす乳酸菌とは
・乳酸をたくさん作る細菌たち(グルコース量に対して50%以上の乳酸を生産する)の総称
・20以上の属、300種類以上にもまたがり、桿菌も球菌も含む非常に多様な細菌群の集合体である。
・生育には、糖類、アミノ酸類、ビタミン類、ミネラル、及び不飽和脂肪酸を必要とする菌群もあり人間に近い栄養要求をする
・最適な生育環境は、pH が 5.0 から 8.0 (菌群の種類によって異なる)。ph3.3が生育の下限
・温度は一般的に 25℃から 37℃だが、高温性乳酸菌45℃ 、中温性乳酸菌25-37℃、低温性乳酸菌10℃以下と幅広い。76.5℃で死滅(酵母は50-55℃)
動物性乳酸菌 → 乳糖を分解し、乳酸を作る。低温で育たない、30℃-35℃が適温
植物性乳酸菌 → グルコースを分解し乳酸などを生成する。低温でも増殖する種がいる
海洋乳酸菌 → 海洋環境から分離した乳酸菌で好塩性・好アルカリ性、耐アルカリ性が特徴
ホモ乳酸菌 → 乳酸発酵において乳酸菌のみを輩出する (TCA回路を有さない)( C6H12O6 → 2CH3CHOHCOOH + 2ATP )
ヘテロ乳酸菌 → 乳酸菌に加えて、酢酸、アルコール、二酸化炭素などを排出する ( C6H12O6 → CH3CHOHCOOH + C2H5OH + CO2 + ATP )
乳酸以外にも酢酸やプロピオン酸、香気成分ではジアセチルやアセトアルデヒドなどを生成する
乳酸菌というのは学名でなく総称。実際の属としては
1.Leuconostoc (ロイコノストック) ザワークラウトなど植物性発酵。ワインのMLF
2.Pediococcus (ペディオコッカス) ピクルスなど植物の発酵、餅麹
3.Streptococcus (ストレプトコッカス) 乳酸菌としては S. thermophilus のみ。ヨーグルト。虫歯の原因を生成
4.Lactobacillus (ラクトバチルス) ヨーグルトに古くから使われる。一部はアルコールに強くワインのMLF発酵に使われ、日本酒の異臭の原因にもなる
5.Melissococcus
6. Enterococcus (エンテロコッカス) 整腸剤
7. Lactococcus (ラクトコッカス) 牛乳やヨーグルト。食品保存に使われるナイシン生成する
8.Carnobacterium、
9. Vagococcus、
10.Tetragenococcus(醤油、味 噌)、
11.Atopobium、
12.Weissella、13. Lactosphaera、14.Oenococcus(ワイン)、 15. Abiotrophia 、 16. Paralactobacillus 、 17.Granulicatella、18.Atopobacter、19.Alkalibacterium、20.Olsenella。この他、本 来の乳酸菌の定義から外れますが、内生胞子を 形成する Sporolactobacillus 属(有胞子乳酸 菌)
日本酒製造にかかわる乳酸菌
「Leuconostoc mesenteroides」と「Lactobacillus sakei」
生酛、山廃の酒母中に増殖した乳酸菌を分離分析したところ、2種類の清酒乳酸菌に限定される
「Lactobacillus fructivorans」「Lactobacillus hilgardii」「Lactobacillus paracasei」「Lactobacillus rhamnosus」
火落ちした酒に含まれる乳酸菌
日本酒に含まれるメバロン酸を食べて増殖。アルコール度25°でも生存可能で弱酸性を好むので日本酒はまさしく格好の棲家である。これらの菌が入り込むことで日本酒は白濁、酸化、異臭を帯びてきて失敗になる
「Lactobacillus casei」「Lactobacillus plantarum」「Leuconostoc mesenteroides」
混入すると、もろみ中で異常増殖し、酸度の上昇や酵母の死滅、アルコール発酵の停滞が引き起こされ、腐造する場合がある
ワインのMLF発酵
「Oenococcus oeni」
pHの低い環境にも耐性がある、アルコール耐性が高い、ワインの欠陥臭の原因になる物質をほぼ生成しない
代謝を行う過程でリンゴ酸を細胞内に取り込み、乳酸として排出
乳酸発酵についてもう少し詳しく話すと
反応: グルコース → (解糖系) → ピルビン酸 → (乳酸脱水素酵素) → 乳酸
行程: 解糖系によりグルコースがピルビン酸に分解され、酸素がない状況下ではピルビン酸が乳酸脱水素酵素によって乳酸に変換される。酸素がある状況下では、ピルビン酸はピルビン酸脱水素酵素によってアセチルCoAに変換され、TCA回路に入る。
そやし水生成法
材料: 水、生米、飯米
材料の割合: 生米9に対して飯米1。気温が低い場合飯米を増やすと良いが、多すぎるとデンプンの供給過多となり、他の雑菌が増える可能性があるため、バランスが重要。
行程: 生米に含まれるα-グルコシダーゼが飯米のデンプンをグルコースに変換し、生米や水、大気中に含まれる乳酸菌がグルコースを餌に増殖する。
最適な生育環境: 温度20-30℃、pH値4-5。
乳酸菌の動き: 初期には様々な野生の細菌が存在。pHが4を下回ると乳酸菌以外の細菌は激減し、pH3.2あたりで乳酸菌自体の活動も減少する。
発酵初期: 低温で生育する球菌のLeuconostoc属とStreptococcus属が優勢。
発酵後期: 桿菌のLactobacillus属(L. leichmannii、L. casei、L. plantarum、L. brevis)が多いが、環境によって変わる。
味わいの特徴: 初期段階に存在した多種多様な細菌により、純粋培養された乳酸よりも複雑な味わいが生まれるが、環境により発酵過程や味わいが安定しない点には注意が必要。
その他: 乳酸菌や麹を添加してスタートした場合、酸の生成にはあまり影響がなく、アルコール酵母の発生量が増えたという結果がある。
発酵食品における乳酸菌の働き
・食品に酸味を与える(酸度とph値、酸味の強さは別なので注意)
・強い抗菌作用 → 液体の㏗値を下げることで雑菌が淘汰される(多くの菌などはph4以下/ph9以上の環境になると死滅する。ただし酵母や麹菌など真菌類には抗菌作用が低い→様々な発酵食品で活躍する要因) )
・ワインのマロラクティック発酵→ワイン中にあるリンゴ酸を乳酸と炭酸ガスに分解。リンゴ酸が乳酸に代わることで酸がまろやかになる
・ヨーグルトなどでタンパク質を凝固させる
・ビタミンB群、ビタミンKなどの生成を促進
・酢酸の生成
・香気成分の生成
アセトアルデヒド→ヨーグルトやチーズの風味において、さわやかな香り
ジアセチル → バターやクリームのようなリッチな風味
エチルヘキサノエート → 特にワインや発酵飲料にフルーティな香り
イソアミルアルコール → バナナのような香りを持つ高級アルコール
酪酸 → 強い香りを持つ脂肪酸
酛
ノキシタ式発酵は日本酒の『酛』という方法をベースに考えています。
酛というのは日本酒そこでまず代表的な日本酒の酛の種類について説明します。
日本酒の原料は米、水、麹、酵母、である。お酒の醸造なので最終目的は酵母によってアルコールを生成することである。アルコールの生成のためにはグルコースが必要であるが米にはグルコースが含まれていないため、一度麹のデンプン糖化酵素によって米のデンプンをグルコースに変化させないといけない。アルコール生成のプロセスだけを単純に表すと
米+麹→グルコース、グルコース+酵母→アルコール
という流れになる。
しかし酵母は非常にデリケートな菌のため酵母が優位になるような環境を整えなければならない。そのためにつくる菌を濃縮した液体が酛である。
酛
・酒母とも呼ばれる日本酒の発酵に活躍する菌の培養液である
・蒸米、麹、酵母、乳酸菌、水でつくる。
・乳酸菌を増やして雑菌を減らす→酸に強い酵母が増えやすい環境
また一般的に菌は弱いものが多いが酵母は酸性に強い性質がある。なので米を麹でグルコースに変えると同時に乳酸菌によって液体を酸性にしていく。その乳酸菌をどのように作っていくかによっていくつかの種類の酛に分類される。
酛の種類
・速醸酛→人工の乳酸菌を添加→乳酸菌の種類を選べ出来上がりのコントロールが安易 (作られてる日本酒の90%)
酛仕込み(水、乳酸、米、麹、酵母→酵母生育)→もろみ→日本酒
・生酛 / 山廃→天然の乳酸菌を酵母菌と同時並行で育てる→他の雑菌との淘汰の末に発酵が進むため複雑なコクのある味わい (日本酒の10%)
酛仕込み(水、米、麹→乳酸菌の生育→酵母の添加もしくは野生の酵母の繁殖→酵母の生育)→もろみ→日本酒
・水酛 / 菩提酛 菩提性→天然の乳酸菌を先に生育 (そやし水) 、後から酵母菌を育てる→酸が一番強い。生酛と同じく菌の淘汰が起こるので複雑な酸味
そやし水仕込み(水、米→乳酸菌の生育)→酛仕込み(麹添加、酵母の添加もしくは野生酵母の繁殖→酵母の生育)→もろみ→日本酒
・高温糖化酛 / 醴酛 → 麹、蒸米、水を短時間で高温(55℃前後)短時間で糖化させる
高温糖化(水、米、麹→甘酒)→冷却→酛仕込み(酵母、乳酸の添加)→もろみ→日本酒
sake fermentation starter - 水酛と煮酛
奈良県 菩提酛による清酒製造研究会が掲げる「そやし水の規定」
そやし水とは、蒸す前の生米を水に浸し、自然の乳酸発酵を誘発、もしくは適切な乳酸菌添加し、この働きにより中性域の仕込水を25℃以上の高い温度帯で乳酸発酵させることで、短期間(2−7日)で、phが4.0未満の酸性域に変化させた乳酸酸性水の事。おたいと言われる炊いた米を、そやし水の乳酸発酵時に使用することは古い文献『御酒之日記』にも記述があるが、正暦寺において単離された乳酸菌(正暦寺乳酸菌Lactococcus lactis lactis )では生米の中に含まれる微量のグルコースでの十分な生育が見られることから、これを省略することも可。酒母育成工程において、そやし水以外の有機酸の補酸は認めない。
ノキシタ式発酵は日本酒の『水酛造りと煮酛造り』という方法をベースに考えています
水酛造り → 飯米+生米+水を使い比較的暖かい環境で天然の乳酸菌を増殖(そやし水)、そこに麹と蒸米を加えて酛を作る
利点 / 暖かい環境に向いている
自然の菌の淘汰が起こるため複雑な味わいが生まれる
強い酸が作れる
欠点 / 自然発酵なので不安定
高温糖化酛造り → 生酛が低温(9℃以下)で発酵を始めるのに対して、高温(55℃前後)で麹、蒸米、水を短時間で糖化させる
そのあと一度冷却して乳酸菌を加え酵母を育てる
利点 / 短時間でできる。糖化は8時間-12時間くらい、酛完成まで10日くらい。(生酛30日、速醸酛15日)
一度高温にすることで雑菌を死滅できる
生酛造りができない暖かい環境でも仕込める
欠点 / 淡白な味に仕上がる
冷却する際に雑菌が増殖しやすい
発酵力が弱い
昔は四季によって作り方を分けていた
春秋→煮本、夏→水本、冬→生本
そのなかで一番品質の安定していた生本だけに製造が絞られ、その後より安定的で簡便な速醸に変わっていった
しかし煮本、水本は製造が安定的でなかったので淘汰されたわけだが、それは今から200年以上前の技術が前提
ノキシタ式発酵
前書きが長くなりました。
nokishita fermentation method - ノキシタ式発酵
ノキシタ酛
・白麹、食材、水を高温で糖化し、そこにそやし水を加えて乳酸発酵
ノキシタ酛の狙い
・優しい甘味
・複雑で強い、しかしきつくない酸味
・食材の味を最大限液体にする
・アルコール発酵させない
水酛、煮酛の利点を活用
・麹の糖化作用 → 麹の糖化作用を使った優しい甘味
・そやし水の乳酸菌 → 天然乳酸菌による複雑で強い、しかしきつくない酸味
・麹の様々な酵素、高温での調理 → 食材の味を最大限液体にする
・高温での調理 → 食材についている酵母を減らしアルコール発酵を抑制する
水酛、煮酛の欠点を補完
・煮酛の欠点である味の淡白さ、発酵力の弱さ → 水酛の強い乳酸菌で補う
・冷却する際に雑菌が増殖する → 白麹を使って最初の段階から酸を作ることで雑菌の増殖を防ぐ
・水酛の欠点である発酵の不安定さ → 少量で仕込むことで安定しやすい。最終的に別々に仕込んだものを混ぜるので味の調節が後から可能
how to make nokishita starter - ノキシタ酛
STEP 1
乳酸菌生成 (水酛)
・材料:生米、飯米、水
・行程:飯米は布に包む。容器にすべての材料を入れて室温(20-30℃くらい)で3日-1週間。1日1-2回飯米を揉む
→生米に含まれるαグルコシターゼが飯米のデンプンをグルコースに変換、生米や水、大気中に含まれる乳酸菌がグルコースを餌に増殖する
STEP 2
高温糖化 (煮酛)
・材料:白麹、水分、食材
・行程:材料を袋に入れて50℃-60℃で12時間前後調理する
→糖化:麹の生成する糖化酵素の作用でデンプンを糖(グルコース)に変える。グルコースは甘味だけでなくその後の発酵の栄養源にもなる。
→タンパク質分解:麹の生成するタンパク質分解酵素がたんぱく質をアミノ酸に変える。
→その他:脂質分解、食物繊維分解など
STEP 3
乳酸発酵
・材料:水酛、煮酛
・行程:4-5℃で12時間以上、その後発酵状況により室温と冷蔵庫移動させる
→乳酸菌がグルコースを乳酸に変える。液体の糖度が減り酸味が増す。